日本の漆利用の歴史は縄文時代にまで遡ります。輪島においては、市内重蔵神社に残る棟札(1476年)や朱漆塗りの扉(1524年)等の史料から、室町時代にはすでに初期の輪島塗が存在していたと思われます。輪島塗の特徴は、地元で産出した珪藻土を粉末にした「輪島地の粉」を下地に使用していることです。また、日本海側の交易の要衝であったため、輪島塗を全国に広めることができました。現在も漆芸の伝統は脈々と受け継がれ、当地からは重要無形文化財保持者(人間国宝)や文化功労者をはじめとした漆芸家を多く輩出しています。
輪島塗は、熟練した職人の手によって生み出されます。椀木地・曲物木地・指物木地・朴木地と職能分化した木地製作が行われます。次に髹漆(漆塗り)の工程で、布着せや輪島地の粉も用いた地付けを施します。輪島塗の堅牢性や吟味された形の美しさは髹漆に負うところが大きいといえます。さらに輪島塗の代表的な加飾方法として蒔絵と沈金が挙げられます。蒔絵は漆で絵柄を描き、硬化する前に金粉などを蒔きつけ固着させます。沈金は、漆の表面に沈金ノミで文様を彫り、その溝に漆をすり込み、金箔や金消粉を入れる技法です。これらの技の集積によって生み出されるのが輪島塗なのです。